Made in Japanが輝いていたころ

SONY カセットデンスケ TC-D5M
SONY カセットデンスケ TC-D5M

SONYのカセットデンスケ、TC-D5Mです。たまたまオークションで出品されていた、極めてレアな未使用品を入手しました。SONYのカセットデンスケといえば、1970年代のオーディオブームと生録音(ライブレコーディング)ブームを支えた功労者で、TC-D5Mはその末裔です。1980年3月1日に発売され、なんと25年間という長い間モデルチェンジもせず生産され、2005年にメモリ録音タイプのPCMレコーダ発売とともに製造完了となりました。その間CDが出ても、DATが出ても、MDが出てもずっと愛好家に支えられてきたロングセラー・モデルでした。

 

届けられて早速手持ちのカセットを入れました。録音は1976年のライブコンサート生録音です。鮮やかに34年前の音が蘇りました。34年という歳月がまるで止まっていたかのように音一粒の狂いもなく蘇ったテープを聴きながら、図らずも涙を覚えそうな自分がそこにいました。その音は良くも悪くもカセットテープの音でしたが、デジタルメディアにはない暖かく奥行きのある音だったのです。"サー"と流れるテープヒス・ノイズすら気持ちよく体に染み渡りました。

 

このカセットデッキは、Made in Japanです。1970年代初め頃からずっとオーディオ機器を見続けてきている一人ですが、このデッキが製造され始めた1980年代が日本のオーディオ機器の頂点であったのではないかと思っています。そしてそれはアナログ時代の頂点でもありました。

 

音楽ソースはデジタルに変わり、トランジスタ部品はICへ変わり、精密な機構部品はシンプルなマイコンとソフト制御に変わりました。オーディオブームは過ぎ去り、人々はCDラジカセで十分だと思うようになりました。そして今やオーディオの中心はiTunes(というソフトやサービス)とパソコンにiPhoneというライフスタイルです。SONYは今年4月に最後のカセットウォークマンを出荷しましたが、3年ほど前に発売されたその最終モデルを見てみると低コストを追求したおもちゃのような姿をしていてがっかりしたものです。記念にコレクションをしようと思えるような出で立ちではありませんでした。

 

もちろん現代のニーズは過去とは比較してその善し悪しを論ずることはできません。でも日本が一番輝いていた1980年代を中心に活躍していたこのTC-D5Mを手に取ってみると、誇らしげにMade in Japanを主張しているのがよくわかります。破綻がなく精密機器のように所有者の満足感を与えるインダストリーデザイン、ほぼ頂点まで上り詰めたアナログ回路設計や機構設計を極めて小さなボディーに押し込めた、SONY伝統の小型化への挑戦。当時の価格で10万円を超える価格は技術の粋を集めたという何よりの証拠でした。

 

その後CDを皮切りにあっという間に時代の流れを変えたデジタル技術は、それまでのアナログ技術を大きく進化させる革命だと信じられてきたのに、なぜか逆方向に進めてしまったような気がするのはなぜでしょうか。デジタル化されて音の質は確かに良い面も多いように思います。そして低価格化への貢献も果たしました。でも、いつしかデジタルの音に慣れてしまったとき、気がついたのはそこで進化が止まってしまったということです。しかも今はMD、シリコンプレイヤーと進むにつれて圧縮技術とともに明らかな音質の低下へと進んでいます。これでは進化への憧れもなく興味は薄れ、グローバル化の名の下に日本の技術は世界の中で埋もれてしまいました。

 

歴史を後戻りさせることはあり得ませんし意味のないことですが、商品を手にとってみるだけで感じ取ることのできる魅力というものにあふれた製品が登場したときに、再びMade in Japanの快進撃が始まると思います。最初からグローバルな並の製品を作ってもだめなんです。ガラパゴス発信で世界を認めさせる挑戦が求められていると思います。業界は違いますがパソコンのLenovo Thinkpadは日本発信(設計)を世界に認めさせグローバルな販売で成功している一つの例だと思います。

 

このTC-D5Mのように25年にもわたりロングセラーを続けてきた名機、ほかにもあると思いますが、皆さんはこうした名機をご愛用されていますか?

 

 

※この時計の時刻は、閲覧しているパソコンのものであり、必ずしも正確な時間とは限りません
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