中学1年生の正月明け、私はお年玉を懐に電器店に向かいました。ずっと欲しかったラジオを買うためでした。中学校に入学してからというもの、クラスの話題は深夜放送で持ち切りとなり、自分だけで使えるマイ・ラジオが欲しかったのです。加えて、小学校時代に放送委員になって以来、ラジオや放送といったものに興味を引かれていたことはラジオが欲しかった理由のひとつでもありました。
1960年代後半から1970年代前半あたりのオーディオといえば、やっと真空管からトランジスタなどに置き換わり小型化やデザインなどに注目された製品などが出始めた時期です。まだ小学生から中学生といった時期を過ごしていた私にとって高価なオーディオ機器は高嶺の花でしたが、手の届くFMラジオを追いかけるだけでも十分技術の進化を感じ取ることができました。
SONYなど大手メーカは、トランジスタやFET、リニアICなどのデバイスの最先端技術をFMラジオにも投入し、その先端技術をアピールしていました。そのころはラジオの1機種ごとに独自のカタログが作られており、何機種ものカタログを集めてワクワクしながら眺めていたものです。
今は急速に進んだデジタル化とマイコンの世の中。さらにAV機器はパソコンを中心とした周辺機器化しつつある感が強くなっています。それは再生機器にとどまらず、録音機器、業務用機器、そしてレコーディング技術すらデジタル文化に合わせた音作りとなっているようで、あのBEATLESですらデジタルに合わせたリマスタリングが話題になるほどの世の中です。
私もそれを先取りするかのようにデジタルメディアにのめり込んだ生活を送ってきました。CD/RやMDはおろか、DATなどのPCMレコーダなどの様々なメディア、MP3やATRAC、AACなどのパソコン系メディアなどもすべて試してきました。今ではiPhoneは自分の分身とすら思えるほどのツールとして愛用していますが、その中でもiPod機能は5年以上も世代交代しながら使い続けてきています。音楽プレイヤーとしては過去のウォークマンに代わるものであり、音質が劣るというネガティブな意見があるにもかかわらず、日常の音源という形で納得すらしていました。
しかし、ふとしたことで手に入れたTC-D5Mというカセット・デンスケ(携帯型のカセットデッキ)の音を聴いたとき、自分が小学校の放送委員になったとき以来持ち続けてきたオーディオへの憧れを思い出してしまったのです。それはたぶん、デジタルメディアとは少し異なる方向性なのだと気付きました。TC-D5Mから聞こえてくる1970年代後半に自分で生録音した数々のライブは、デジタル化した今のメディアに比べればダイナミックレンジや解像度などまったく太刀打ちできないものの、自分をぐいぐい引きつけるものがあったのです。
それはスペックでは語ることのできない、空気感とか、暖かみがあって臨場感をはっきりと伝えてくれたのです。そして思わす苦笑してしまったのは、アナログ時代に不満でたまらずCDの登場に歓喜したときとは裏腹の、デジタルにはないものに憧れ出した自分がいたのです。
これから自分はどんなオーディオライフを送っていくのでしょうか。その記憶を残すために、ラジオとオーディオのコーナーとしてご紹介します。将来にわたり新しい機器も加わるでしょうし、お嫁に出すこともあるかもしれません。それらを加えながらライブラリは増えていくことでしょう。