NISSANスカイラインの父、櫻井真一郎氏ご逝去

初のスカGターボ(HGC211)走行試験 1980年
初のスカGターボ(HGC211)走行試験 1980年

日産スカイラインというクルマは、私にとってとても思い出深いクルマであり、また私のクルマ観の基礎となっているクルマです。今でこそあまり見かけなくなってしまった車種ですが、40年ほど前はクルマ好きでなくとも誰もが知っていた車種で、当時の若者達の血を沸き立たせたグランドチャンピオンレースの覇者でもありました。特にGT-Rというグレードのクルマは超特別な存在であり、それは現在スカイラインから独立した車種、Nissan GT-Rとして生まれ変わり新しい系譜を生み出そうとしています。

 

櫻井真一郎さんは、日本の経済を支える自動車産業という一大業界にあって、カリスマ的設計開発リーダーとして第一人者と言っても過言ではないでしょう。櫻井真一郎=スカイラインとまで表されるほどのブランドだったのです。そしてまた戦後の日本が復興し、欧米の技術に追いつき追い越せと言う最も力溢れた工業振興の象徴的な存在でもあったと思います。

 

クルマという商品は、たいへん幅広い分野の技術の集合体です。よく走り、よく曲がり、よく止まる。この三要素を見事にバランスさせて、それを誰が見ても美しく格好のよいパッケージに入れ、乗り込んでドアを閉めれば満足感の得られるコンフォート性能が求められるという感性に訴えられるモノでなければなりません。

 

それらは幅広い分野の専門性を持つ開発者達を見事に統括しなければならないという点で、櫻井真一郎さんはそのカリスマ性を見事に発揮したのだと思います。それでも櫻井さんは一人のサラリーマンとして、与えられた限界のある中で最大限の努力を惜しまなかったのです。好きなことだけをやれたわけではありませんでした。思い通りの設計が出来たわけでもなかったでしょう。思い通りの素材やエンジンなどを手に入れられた訳でもなかったと思います。

 

普通は櫻井真一郎のスカイラインというと、すぐ、あぁGT-Rだよね、とくる。でもビジネスはGT-Rではありません。2000GTですらなくて、ふつうの1500ccのデラックスなんてグレードがメインだったりします。でもそういう車種にもきちんと手を入れてスカイラインという車種にその設計思想の柱を明確に示していきました。それでも惜しむらくは、櫻井さんのスカイラインは目標としていたBMWにあと少しの差で追いつけなかったのではないかと思います。

 

櫻井さんはかつて日産プリンス誌で正直に告白しています。「目標にしたBMWを買い込んで、ネジ1本まで全部ばらしてみたが、そこからは何も特別なモノを見つけ出すことは出来なかった。」部品自身に違いがあるわけではなく、その応用技術、その設計フィロソフィーにあると確信した櫻井さんでしたが、結局トヨタの物量作戦の前に思うようなクルマ造りを出来ずに7thスカイラインを最後に身を引いていきました。

 

私は元々祖父がプリンス自動車-日産プリンス自動車販売という販社のサービス長であったことで、子供の頃からスカイラインは身近な車種でした。家のクルマも当然ながら?スカイラインでした。加えて櫻井さんのカリスマ的存在がぐいぐいと私をスカイラインに引きつけていったのです。

 

写真のスカイライン2000GTターボ(スカGターボ)は、社会人になって初めて自分の給与からローンで購入したマイカーでした。その頃はもはやスカイラインにはGT-Rはなく、これがその代わりだったのです。こうしてボディシルエットを見てみると、伝統のロングノーズ・ショートデッキのその姿は意外にも今の世の中でも悪くない姿をしています。ちょっとリアのオーバーハングが長すぎる気もしますが(笑)実際、数年後不幸にも事故で泣く泣く手放すまでは恋人のような惚れ込みでした。

 

そのスカイラインは事故後入庫した整備工場の方に譲りましたが、とても綺麗に修復され、その後さらに他県の方に引き取られて愛用されたそうです。

 

私はと言うと、GT-Rが出ないままいたずらに大きく重くなってハイソカーへの道をまっしぐらというスカイラインに失望し、逆にボーイズレーサーに憧れるようになりました。しかも4WDツインカムGTターボなんていうハイテク満載のクルマにも乗ったりしましたが、貯蓄してR32のGT-R Vスペックを買うんだと張り切って、ついに買える段階まできたのです。

 

しかし、なーんと気まぐれに立ち寄ったBMWディーラーにて当時の3シリーズ(E36)に試乗させてもらったら、頭を思い切り殴られたような気がしました。クルマ本来の走る、曲がる、止まるの基本がこれほどエレガントに調和してまとまっているものなのか。GT-Rは当然これらの3要素も頂点にありましたが、どうしても運転するときに気合いが入ります。BMWは楽しくて疲れないんです。思いもかけずハマりました。櫻井真一郎さんが目標としたBMWとはこういうことなのか。

 

私はGT-Rを捨て、BMWを購入しました。そしてそのまま3代にわたりBMWを購入し続けています。他のクルマはサブ的に乗ってもBMWを手放すことはないでしょう。

 

でも、それもこれもやっぱり私の原点がスカイラインにあったことは間違いなく、また櫻井真一郎氏の述懐が記憶されていたからこそBMWの奥深さを知ることにもなったと思います。そういう点で櫻井真一郎さんの存在が私にとっても大きかったと認めざるを得ません。やっぱり櫻井さんはクルマ産業界にあって偉大なカリスマでした。櫻井さんのご冥福をお祈りいたします。

 

合掌

 

 

※この時計の時刻は、閲覧しているパソコンのものであり、必ずしも正確な時間とは限りません
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