Canon FT QL

1966年 (昭和41年) 3月発売

Canon FT QL (Canon FL50mm F1.4 II 付き)
Canon FT QL (Canon FL50mm F1.4 II 付き)

【梟(ふくろう)の目を持つ一眼レフ】

Canon Fシリーズ最初のFX発売2年後の1966年、キヤノンTTL露出計内蔵一眼レフカメラの本命、Canon FTQLが発売されました。このFTQLは、後の開放測光形Canon FTbをはじめ、プロ用一眼レフカメラCanon F-1シリーズの基礎を築いたプラットホームと位置づけられるカメラです。

前年に発売されたCanon PELLIXは、キヤノン最初のTTL露出計内蔵一眼レフカメラであり、またミラー構造もユニークな固定ハーフミラーを用いるなど意欲的な設計を取り入れられましたが、このFTQLではCanon FXと同様一般的なクイックリターンミラー型のプラットホームにTTL露出計を組み合わせるという、他社同様のオーソドックスな形で組み上げられています。

 

しかし測光形式に関しては、PELLIX同様画面中央部12%領域を切り取った中央部分測光方式を採用しているところが、いかにもキヤノンのこだわりを感じさせます。FTQLではこの部分測光を実現するために、CdSセンサーを、フォーカシングスクリーン直後にあるコンデンサーレンズ脇に置き、ファインダースクリーンに映し出された画面の光を部分的に引き込む方法を採用しています。フォーカシングスクリーンは実際のフィルム面と同様にもう一つの焦点面であることから、これをキヤノンでは「代理焦点面での測光方式」と呼びました。その代理焦点面でしかも中央部分測光を行うために、スクリーンとペンタプリズムの間にあるコンデンサーレンズを斜め45°にカットした上で中央12%の部分にハーフミラーとするための蒸着コートを行い、再度コンデンサーレンズを貼り合わせるという高度な製造工程を設けました。ハーフミラー部分の光は30%を反射させてCdSセルに、70%は透過させてファインダーへ届くように配分されています。

 

このFTQLで採用された部分測光の考え方は、のちのプロ用一眼レフとして絶大な信頼を得たCanon F-1シリーズにも採用され、1996年New F-1が販売終了になるまで長期間にわたり高い評価を得ることになりました。Canon FTQLはその元祖ということになるのです。

 

※注:厳密に言えば、New F-1の測光は、フォーカシングスクリーンを代理焦点面と位置づけていることに変わりはないものの、測光方式それぞれに対する反射格子をコンデンサーレンズとスクリーンの間に挿入した、マイクロビームスプリッター(MBS)という方式を採用しています。コンデンサーレンズをカットして半透明ミラーを挿入する方式は旧F-1までです。

 

Canon FT の測光は PELLIX 同様絞り込み測光でした。測光レバーはセルフタイマーと兼用でカメラを持ってファインダーを覗くときに、ちょうど右手の中指が測光レバーに触れるような位置になっており、中指でそのレバーを押し込むと絞り込まれて測光がONになるようにできていました。そして FT には PELLIX QLと同様、測光をONにしたまま固定するためのロック機能が設けられました。露出の合わせ込みはシャッター速度/ASA(ISO)値に連動するメーターで、実絞りを行いファインダー内の定点にメーター指針を合わせるという方式でした。

 

フォーカシングスクリーンは PELLIX と同様マイクロプリズム方式で、FX/FP のようなスプリットイメージは採用されていません。恐らくは FT も PELLIX も測光センサーへ光を導くために使用するハーフミラーのため、ファインダー・フォーカス面へ透過する光量が少なく光量不足に弱いスプリットイメージを採用できなかったのではないかと思います。実際この FT では、中央測光部に関してはハーフミラーを透過してファインダーに届く光は 70%でしたので、この部分が異様に暗いというのが欠点でした。

 

その他 PELLIX QLとの相違点としては、シャッター幕が FXと同様の布製であること、アイピースシャッターが廃止されたためフィルム巻き上げクランクの部分のアイピースシャッターダイヤルに代わってバッテリーチェッカースイッチが新たに設置されている点がなどが挙げられます。

 

また FTQLから新たに採用されたフィルム自動装填方式である QL (Quick Loading) 機構は、当時販売されていたヒット作のコンパクトカメラである、キヤノネットQLに採用されていた機構を移植したものです。この機構は次作のCanon FTb(QL)にも採用され、約10年間継続して搭載された機能です。

 

なお PELLIX QL と共通のアクセサリーとして、暗い場所(低照度)での撮影用として、カメラの測光センサーを使用しつつアンプのゲインを上げて測光範囲を大幅に広げる外部補助メーター、「キヤノンブースター」が発売されています。

Canon FTQL発売当初の1966年、大学卒初任給は平均¥24,900だったそうです。それに対してFL50mmF1.4付きの価格は¥54,800でしたから、初任給の約2.2倍の価格であったことになります。今で言えばEOS 1D MarkIVボディを買うようなものです。当時は現代のようなカメラ量販店とかディスカウンター、ネット通販などはありませんでしたから、当時のユーザは殆ど定価同然で購入していたのではないかと思います。その頃は一眼レフカメラを購入するということはたいへんなことだったのですね。その後FL50mmF1.8付きという廉価モデルが発売になり、このモデル末期には平均給与も上がってきていたので、一眼レフカメラ市場の底上げ要因にもなりました。

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