Canon T-60

1990年(平成2年)4月発売(日本は未発売)

輸出専用モデル T-60
輸出専用モデル T-60

このT60は、キヤノンがほぼ全面的にマウントをEF系へと変更した1987年から数えて3年後の19904月に、海外市場専用モデルとして旧来のFDレンズ系マウントを搭載して発売になったエントリー一眼レフカメラです。ところがその特徴としては、キヤノンの一眼レフカメラ史の中でもいろいろな意味で異色の存在といえるのです。

 

     おそらくキヤノンにとっては一眼レフカメラ初のOEMメーカ製品であること。

     当時キヤノンはEOSへの全面展開をしている中で突然このT60だけが発売になり、結局このモデルがマニュアルフォーカスレンズ(FD)対応マウントを持つカメラとして最後に発売されたモデルになったこと。1996年に販売を完了したNew F-11981年発売です。

     数々の撮影自動化を推進してきたキヤノンであるのに、なぜかこの時期に絞り優先AEで特にアクセサリー連携に乏しいマニュアルカメラを投入したこと。

 

1990年代中頃のことだったと思いますが、米国へ出張するたびに現地のカメラショップを訪れていた私は、店頭のショーウインドゥに誇らしげに飾ってあったこのT60というカメラのことが気になっていました。すでに自分の機材としてはEOSへと移ってしまっていた私としては、気にはなっても特に購入意欲は起きませんでした。その後Canonカメラのコレクションを趣味のひとつとして始めて以来、再びT60のことが気になってはいましたが、すでに販売を終了していたことと海外販売のみであったため、入手は困難だったのです。

今ではネットショップや海外ネットオークション(ebayなど)のおかげで国内にいても入手することができるようになりましたが、T60に関しては程度の良い個体を入手することがかなり難しくなっているのが実情です。おそらくは今でも国内の中古市場やオークションではレアな存在であることは間違いありません。

 

さて、いろいろ調べてみますとこのT60はコシナのOEM製品であることが知られています。コシナというメーカーはOEM生産を主力とするカメラ/レンズメーカーであり、特に現在でも各社一眼レフ用のカールツアイス・レンズやフォクトレンダーのレンズなどをOEM生産していることで有名です。私もEOSデジタル用レンズとして同社のカールツアイスレンズを愛用しています。その品質も極めて高く、同社の製造品質の高さを証明してくれています。このコシナ社はその一方で1980年代から1990年代にかけて同社の一眼レフカメラをベースに各カメラメーカー向けOEMビジネスをしており、そのひとつがキヤノンのT60だったというわけです。コシナ社のOEM先はキヤノンに限らず、Nikon FM101995年発売、現行品)、オリンパスOM2000(19977月発売)、リコーXR-7M II(199310月発売)、同XR-8(19931月発売)、チノンCM-7(1987年発売)など多数の会社向けにOEM供給を行っていたようです。その裏には急速な電子制御技術競争の激化と同時に、新興国などの新しい市場向けに低コストな一眼レフカメラを提供しなければならなかったカメラメーカーの苦悩を見ることができます。

 

T60のカメラとしての機能・性能ですが、絞り優先AETTL開放測光のみ、シャッターは2秒~1/1000秒、ワインダー機能はなく、キヤノンのフラッシュオートにも対応していないなど、発売時点でみてもおよそ10年以上前の技術水準に過ぎないため、残念ながら見るべきところがありません。しかし新興国向けやよりビギナー向けの新しい市場の掘り起こしという観点では、主力のEOS市場に競合するところが全くないということで、特にこうした製品投入には問題はなかったのでしょう。それよりもとにかく桁違いに低価格で販売できるというメリットの方がその他を上回ったものと思われます。しかもOEMですから開発生産はコシナまかせで自社のリソースを使わなくて済むわけです。

 

T60の外観はできるだけキヤノンのカメラに似せて設計されたように見えますが、実はどのシリーズにも似ていません()。ただペンタ部のCanonロゴだけで騙されます。バックパネルなどのゴム状のシートの雰囲気はTシリーズと言えなくもないですが。操作系もTシリーズとは全く異なりますし、Aシリーズなどとも違います。操作系の違いなどはOEM製品なので仕方がありません。しかし絞り優先AE機ということで元々操作系が極めて単純であるため、初めて手に取ってもその操作に迷うことはまずないでしょう。実に簡単操作であり、逆にそれ以上のことはできないのです。

 

こうしたOEM機であるT60は、まあ殆どの人は振り返ってくれない存在なのですが、コレクターにとっては希少価値という意味で極めて重要なモデルでもあります。

 

このT-60が発売された1990年以降、もはやFDレンズ用のマウントを持つ一眼レフカメラの発表はされることがなく、生産・販売されていたのもCanon New F-1が細々と続いていただけとなりました。そして1996年の夏にはCanon New F-1だけでなくすべてのFDレンズ群の製造販売も完了となったのです。T-60はその生い立ちも特異な存在でしたが、FDレンズという一時期のキヤノンを支えた時代の最後に発売されたモデルというにはあまりにも特殊な一眼レフカメラでした。いわば姉妹モデルとでもいうべき、Nikon FM10がいまでも同社のフィルム一眼レフカメラとしてOEM供給・販売されていることとは対照的でもあります。

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