コラム:BOSEとQC15ヘッドフォン③

 ところが購入して暫くの間は通勤でもあまり使用することはなかった。当時はHDDタイプのiPodを使用していたので、iPodの内蔵電池の持ちを気にしなければならず、面倒になっていたのだ。それがiPhoneに変わり、ヘッドフォンもBOSE QC15という改良モデルを再び購入してからは長時間持続して効くことが可能になり、毎日のように通勤時に音楽を聞くようになった。


 このQC15も基本的にはQC2と同じだが、高音域が改善されいるという謳い文句通り、若干でもその改善効果が感じられた。ところがこのQC15を使い始めて1年ほど経ったあたりから、驚くほどの変化が現れ出した。音源の解像度が一層高くなり、それまでも明瞭度の高い再生がさらに一枚ヴェールを剥がしたようにクッキリしてきた。一つ一つの楽器の定位がものすごくはっきりして、帯域の伸びもより一層良くなってきたのである。決して新品時に悪かったわけではない。それまでも他のヘッドフォンよりも優れていると思っていたのだが、1年ほど経ったあたりからはそれがハッとするほど良くなり、遥かに上級クラスのヘッドフォンにも匹敵する音質に変わったのである。

 

 音質を言葉で表現するのは結構難しいものだ。ざっくりとは表せても、自分の感じたことを正確に伝えられたのかどうかが分からない。さらにそれがひとりひとりの好みによっても左右されるのだから、こんなことをウェブに載せることが意味のあることなのか考えてしまう。まあ自己中と言ってしまえばそれまでなのだが。偉そうに書いてはいるが、僕はオーディオ評論家ではないのでそんなに沢山のオーディオ機器を視聴しているわけではない。僕は自分の好みの音に出会えばじっくりと聴き込むが、そうでない場合にはあっさりと聴くことをやめてしまう。だから僕にとって試聴するとき聴き始めの10秒間くらいがその評価を大きく分けてしまう。

 

 ここで書き記しているオーディオ機器は、すべて自分で購入したものである。だから自分に手の届かなかった超高級な機器についてはまともに聴いたこともない。ヘッドフォンも超高級なものはあるしきっと驚くような音を奏でるのだとは想像するが、愛用しているものに比べてどの位違いがあるのかはさっぱり分からない。だから自分のリファレンスとして未だに君臨し続けているのはSONY MDR-CD3000である。自分の聴き込んだヘッドフォンの中でこいつだけが音源の奥行きをはっきり伝えてくれる唯一の存在だ。


 サラウンドでもなく2チャンネル録音のソースを聴いて、音源の奥行きを感じるというのは不思議なことであるが、これを感じるということは相当解像度が高くなければ表現できないと思う。もちろんソースによりけりではある。レコーディングエンジニアの能力にも左右される。デジタル録音が当たり前の昨今、コンプをバリバリにかけて録音レベルのメーターがMAXに張り付くような録音などは論外だが、さらにひどいのはソースの音自体が歪んでいるものすらある。こんなソースならヘッドフォンの優劣を語る意味すらない。むしろデジタル処理をしていても1960年代のJAZZライブの方がずっとソースとして使用に耐えられるだろう。

 

 BOSEのQC15は、リファレンスのMDR-CD3000には僅かに及ばないものの、その解像度は低音から高音域に至るまでかなりのものである。有名なモニターヘッドフォンであるSONY MDR-CD900STも解像度という点では素晴らしいが、こちらはまったく2Dの音だ。あらゆる音源の音が全部、これでもかというくらいに出てきてお互いに主張し合っている。しかし、CD3000もそうだがQC15も収録現場の雰囲気をそのまま再現してくれるのだ。そういう意味ではQC15の方がずっと音楽を聴かせてくれる。


 QC15は、どちらかというと低音域の出方が今一つと思えるかもしれない。でも僕には下手にイコライザーで低音をブーストしたり、ヘッドフォンのハウジングで低音を強調したりした音は嫌いである。なぜなら、より低音をきかせたければ音量を少しだけ上げてやれば良いからである。すると聞こえてくる音が生き生きとして、ダンピングの効いた低音がダイレクトに伝わってくるようになるからだ。僕は、本当によく出来たヘッドフォンというのは音量を多少上げて長時間聴いても疲れないものだと思っている。CD3000もQC15も、まさしくこの部類に入る。

 

 もともと人間は音を耳だけで受け止めてはいない。聴力外の倍音成分を皮膚で感じ取れるかどうかは定かではないが、こと低音域に関しては確かに体全体で受け止めているのがライブを聴きに行くとよく分かる。その低音域をスピーカーで鳴らすならある程度は身体で受け止めることもできるだろうが、ヘッドフォンの場合すべての音域を耳だけで受け止めなくてはならない。原理的にヘッドフォンは低音域を苦手としているのである。だから低音域がよく出るという謳い文句のヘッドフォンはたいていがドンシャリのムチャクチャな音がする。例えバリバリのロックを聴くにしても、Bass Boostをかけたヘッドフォンで聴いても音楽にすらなっていない。身体に響く低音は最初から不可能なので、逆に迷惑にならない程度にボリュームを多少上げて、後は自分の聴覚自身が低音域を補正してくれるまで待つのが良い。ただしボリュームを上げすぎて聴覚障害にならぬように注意しなくてはならない。

 

④へ続く

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