SONY ICF-EX5 MK2 MW-DX Radio

中波ラジオのBCLというユニークなレトロラジオは現行品!

SONY ICF-EX5MK2
SONY ICF-EX5MK2

SONY 3 Band Home Radio

 

・ICF-EX5

 (昭和60年10月21日発売)

 ¥価格は調査中

 

 ※部品調達の関係で、2001年(平成13年)に  

   型式はそのままで内部回路設計、部品を

   大幅に改訂。(S/N 104371以降)

 

・ICF-EX5MK2

 (平成21年2月10日発売)

 ¥オープン、市場価格は12,000円程度

 

 ※平成23年1月末現在、現行販売モデル

このICF-EX5MK2というラジオは、マイナーチェンジ前のオリジナルICF-EX5を含めると、2011年1月末現在でなんと26年間も製造販売を続けている、驚異的なロングセラー・モデルです。しかも現在もまだ製造を続けていますしもちろん Made in Japanでもあります。

 

最初の発売は昭和60年。Compact Disc(CD)が徐々に普及をし始めた時期でもあります。商品カテゴリー的には”ホーム・ラジオ”に属する、FM/AMラジオにラジオNIKKEI(旧日本短波放送)の受信を加えた、ごく一般的なラジオです。それがどうしてこのようにロングセラーを続けているのでしょう。

 

実はこのモデルにしかない大きな特徴があるのです。それはMW(中波)ラジオの受信が超高感度であるということに尽きます。なにしろこのラジオで北海道から沖縄までのラジオ局の放送が聴けるというのがキャッチフレーズなのですから。

 

実際、写真をよく見ていただくとわかるのですが、一見BCLラジオのように周波数ダイヤルスケールが大きいです。でもスケール目盛りを見てみますとこれは殆どすべてMW(中波)専用です。そこにびっしりと実際の国内の放送局の周波数位置が地域別に書き込まれているのです。

 

中波(MW)のDX受信なんていままで聞いたことがありませんでした。BCLラジオでさえ長距離受信は短波放送でと思っていました。もちろん中波ラジオの受信の際に一部近隣国からの電波を受信したりはしていましたが、関心がなくむしろ妨害電波だとすら思っていたくらいです。でもそれは私が首都圏に住んでいてキー局のローカル受信に慣れていたからかもしれません。地方在住の方々にとっては、夜間周りも電波も静まりかえっている時に、隣接局とのビート妨害などに悩ませられながらも一生懸命チューニングのダイヤルを調整しながら、ノイズに埋もれたキー局の受信をされておられたと思います。そのような方々にとってはICF-EX5のような中波DX受信用ラジオのニーズは確かにあったとも言えます。

 

1980年代と今ではFM局の数に大きな開きがあり、また既存FM局もどんどん中継局を配備することで、今や山間部でもFM放送を受信することは当たり前の時代になりました。しかし比較的伝搬能力の高い中波帯ではむやみに中継局を設置するわけもいかず、その点環境はあまり改善されていません。そのことがまたこの機種の生産を続けさせている一つの要因になっているのかもしれません。

 

ではなぜこのモデルが中波で超高感度を実現できているのか。それは内蔵されているバーアンテナと同期検波というユニークなチューニング・システムにあると言われています。まだ購入してから分解していないのでわかりませんが、一般の同クラスのラジオに比べると遙かに長い立派なバーアンテナが内蔵されているようです。これで少なくとも電波を拾いやすくします。次に同期検波といって、短波のSSBのような側波帯利用の方法を応用して、ビート妨害の起きている側波帯をカットすることで妨害排除ができるようにしたものです。この検波方式は限られた機種にしか採用されていないので、改良バーアンテナによる受信感度の向上と、同期検波による高い選択特性の両立により実現できているのです。

 

実際にこのEX5MK2を手にして操作してみると、まず気付くのが少年の頃の自分の姿でした。ラジオを前にしてチューニング・ダイヤルをゆっくりと回していきます。ノイズだらけの中から目的の放送局を探し出そうとする姿は、数十年前の自分の姿とまったく変わりがなく、このラジオの技術はその時代のまま何も変わっていないと云うことなのです。あまり当てにならないLEDインジケータはあっても、チューニングメータすらないこのEX5MK2では、頼りは耳と指先の感覚だけです。現代では珍しい、フル・アナログの世界なのです。

 

それでもバックラッシュのない巧みなチューニング・ダイヤルをほんの少しずつ回して全神経を集中させていると徐々に浮かび上がってくる目的の放送局からの音が浮かび上がって来ます。2ch的に云えばキターーーーーって云うべきなのかゾクゾクとした感触と嬉しさ、なぜかほっとする安堵感などが入り交じった独特な気分は、今のPLLシンセチューナーにあるような、ポンと出てハイそれまで。これ以上は無理だから。なんてものと真逆の存在です。ユーザーもラジオもギリギリまで頑張ってくれます。もうひとつのソニーらしいラジオ、ICF-SW100Sなんかとはもう本当に正反対のラジオです。蒸気機関車的な感動とも云えます。

 

もっとすごいのは、そんな超昭和ラジオ体験を中古リフレッシュ品ではなくまっさらの新品で秋葉原でもamazonでも買えちゃうことなんです。すごいです。

そしてそれを作り続けているSONYというメーカーにも感動してしまいます。他の大手家電メーカーがみな悪しきグローバリゼーションの影響で、合理化リストラを進め過去の遺物や技術をどんどん投げ捨てて行っているのに対して、しっかりとロングセラーモデルを残しています。このEX5も2000年頃生産継続を断念しかかるような部品供給の問題があったそうです。しかしSONYはそれを以て生産中止にはしませんでした。製品の機能・性能はおろか型番(ICF-EX5)すら変更せず、新たに再設計を行いました。中身がそっくり入れ替わるほどの変更を受けながら型番すら変わらなかったという例をいままで聞いたことはありません。

 

不思議なのは、2009年に行われたMK2への変更です。型番がMK2へ変更になっているのに中身は殆ど変更はなく、単にチューニングダイヤルパネルからアナログテレビのチャンネル表示を抜いて、中波ラジオ局の局名をリフレッシュしたくらいなのです。むしろ2001年に変更になった回路や部品の全面変更のほうがMK2と呼ぶに相応しいと思います。2001年頃は多くのエンジニア達は既にデジタル世代になっていたと思います。そんな中で再びフル・アナログのラジオを設計することはその部品調達を含め大変なことであったと思われます。それを敢えて挑戦したというところに私はまたSONYらしいなあと思っています。それとも、このモデルを利用してSONYは社内の若いデジタル技術者達に対してアナログ技術を伝授したのでしょうか。

 

いまでも普通に新品で購入できる昭和ラジオ。しかも他を寄せ付けない中波の高感度ぶりで価格もリーズナブル。BCLファンにはお勧めの一品です。


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