コラム:SONY Densuke Part 1

初代カセットデンスケ TC-2850SDの思い出

昭和26年、ゼンマイの巻き上げで動作する肩掛け式テープレコーダM-1型が初めて試作されました。このM型テープレコーダーはM-4型まで発展しながら放送局仕様の取材用レコーダとして活躍しました。さらにその後新しくEM型と呼ばれる新型の肩掛け式業務用録音機が開発されます。最初のモデルはEM-1(昭和36年)で、この形式はEM-3に至るまで改良が加えられていきました。昔のことなので、テープはまだオープンリール(5号リール)で、もちろんモノラルです。

 

※定かではありませんが、SONYがこのEMシリーズ肩掛け式テープレコーダを開発した際、あの有名なNagraというオーディオメーカー(現在はNagra社から独立してAudio Technology Switzerland S.A.という会社になっています)との協業で実現したということです。 

 

ところで昭和26年当時、漫画家の横山隆一さんが毎日新聞で「デンスケ」という連載漫画を描いておられたそうです。主人公は少年なのですが、連載の中でM型肩掛け録音機をかついで街頭録音に出るストーリーを約一週間続けたところ反響を呼び、当時の人々はNHKのプロ達も含めて肩掛けタイプの録音機のことを「デンスケ」と呼ぶようになったのがきっかけだそうです。以来このMシリーズやEMシリーズ報道取材用ポータブル録音機は報道業界で「デンスケ」と呼ばれ、広く愛用されました。 

 

昭和41年、初めてカセットレコーダが発売されると、家庭用にもポータブル・テープレコーダが徐々に普及を始めました。その数年後には早くもステレオ録音の可能なポータブルレコーダが出現します(ここでは本格的な据置き型オーディオ・カセットデッキは除きます)。SONYで言えばマガジンマチックP&D(TC-2100)あたりがそれにあたります。

 

このTC-2100は、その頃売れていたTC-1177/1170をステレオ化したような機種でした。横置きでカセットの横にスピーカー。スラントしたパネルにはピアノタッチのテープ操作キー、そしてボリュームとトーンのつまみがあるというスタイルです。電源はACアダプターではなく本体に内蔵していて家庭用電源で動作させるにはACコードをそのまま差し込むという形でした。このTC-2100あたりがカセットデンスケ誕生前夜の状況であり、この原型をもとにカセットデンスケが開発されたのでしょう。

 

昭和48年5月、最初のカセットデンスケTC-2850SDが発売されました。据え置き型のカセットデッキに肉薄する高音質を確保するため、DC6Vの電源を内部で+/-24Vに昇圧するDC-DCコンバータ安定化電源を搭載したほか、当時発売されたばかりのクローム・テープ(現在のハイポジション)対応とフェライトヘッド(F&Fヘッド)の搭載、またテープヒスノイズを低減させるDOLBY    Type-Bシステムを搭載と、当時の据置き型デッキに匹敵する先端技術を投入してきました。定価は¥60,000でした。

 

この初代デンスケはかなり売れたようで、この大きく重いデンスケを担いで歩く若者達をよく見かけましたし、その後生録ブームが起きたことを考えると、この初代カセットデンスケの功績には大きいものがあったと思います。でも当時私はこのデンスケにはあまり物欲がわきませんでした。なぜなら、大きくて重いこと。108(H)x378(W)x238(D)(mm)はまるで据置き型なみの大きさでしたし、重さも5.4Kgもあったのです。それでいて単一電池を4本も使ってわずか2時間しか録音できませんでした。さらに家庭用ポータブルレコーダの名残として殆ど不要と思われるモノラル・スピーカをなぜ搭載しているのか理解できなかったし、録音時に極めて大切なレベル調整ボリュームがスライド式で微調整がしにくいものでした。しかもこのデッキのスタイルは好きにはなれませんでした。プラスチックの部分になんの細工もなく、VUメータ(単なるレベルメータ?)の周りの黒いプラスチックの額縁はいったい・・・(笑)オーディオデッキでもなくポータブルテープレコーダーでもない中途半端なデザインでした。でもこれを格好いいと絶賛した人もいたんですから実に不思議に思ったものです。

 

実際私も知人から借りて使用した経験はあります。当時併売されていたワンポイントマイク(ECM-99A)は、比較的ノイズも少なかったと思いますが、バランス的には低音が強めながらも迫力はあった記憶があります。少なくとも内部のDC-DCコンバータによる回路電源を昇圧したおかげで家庭用のレコーダとは一線を画す高音質デッキでした。

 

しかし・・・こんなものを担いで遠くまでSLやら小鳥やらの録音に出かけた人はどのくらいいたんでしょうか?もっとも価格的に6万円というのは据え置き型デッキと比べれば安い方だったので、家のオーディオに接続して据え置き型の代わりに利用した方も少なからずおられたことでしょう。FMのエア・チェックには大いにアリでしたね。

 

というわけで私自身はこの初代カセットデンスケは借りて使用していた経験はありましたが、どうも所有欲がわきません(^^;)SONYのコレクションをするならこれは必須アイテムなんですけどね。

 

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