SONY DAT Walkman WMD-DT1

妥協を許さない小型化への挑戦が実を結んだ至宝の一品

SONY DAT Walkman WMD-DT1
SONY DAT Walkman WMD-DT1
SONY DAT Walkmanカタログ 1993年2月
SONY DAT Walkmanカタログ 1993年2月

SONY DAT Walkman WMD-DT1

Portable Digital Asudio Tape Player

 

・WMD-DT1

  (平成5年、1993年2月発売)

 ¥49,800

 

※製造終了は平成11年(1999年) 

WMD-DT1。この型式から想像できるように、本気でカセットウォークマンの後継者になるべく送り出されたDATウォークマンです。確かにDATウォークマンは1990年発売のTCD-D3を皮切りに数機種発売されましたが、DT-1を除く全てが録音機能が内蔵された録再機で、型式もこれらはTCD-Dxというもので区別されていました。

このDT1は、カセットウォークマンの多くに見られる再生専用機です。価格も発売当時5万円近くして、それこそカセットウォークマンなら数台買えるほど高価だったのに加えて、これは再生専用機、つまり別に録音用のDATデッキを所有しているユーザにだけ持つことを許されたプレステージ・モデルだったのです。

その代わり、ソニーはDATというデジタルメディアを開発したメーカのプライドにかけて世界最小のDATプレイヤーを開発して見せました。そのために多くの新技術を投入しています。とにかくDAT小型化の大きな壁であるビデオデッキのような回転ヘッドと複雑なテープローディング機構。普通のDATデッキではローディングモーターによりテープをカセットから引き出して回転ヘッドに巻き付けますが、DT1ではカセットを装填する指の力と動きを利用してメカ的に巻き付け装填する仕組みを開発しました。

さらに持ち運びのためのウォークマンですからテープの安定走行が次の難題でした。回転ヘッドによるアジマス記録を元にするDATでは、テープとヘッドのトラッキングが少しでもずれたら耳をつんざく様なデジタルノイズに悩まされます。普通のDATデッキでも調整が難しいくらいなのに、歩きながらの使い方では常に揺れたり振動があるなど劣悪な環境です。ソニーでは既にCD車載デッキで採用されていたデータのプリロード時に一旦メモリーに取り込み、音声データの並べ替えと訂正を行ってからDACへ送り込む方式を採用することで、事実上のトラッキングエラーから開放することに成功しました。これをノントラッキング方式と云います。

こうして見事にボディサイズをコンパクトカセット並みに追い込むことに成功しましたが、厚みや重さに関しては回転ヘッドや機構部分と使用電池の制約上、カセットウォークマンには到底及ぶものではありませんでした。

再生音質については、特にDATだからどうのこうのと云うべき特長はないと思います。とにかくDATカセットを手軽に聴くことができて、今までのDATウォークマンよりも小さく軽いので便利ということが取り柄だったのです。

実はこのWMD-DT1が発売された1年前に、新しいデジタルメディアとしてSONYからミニディスク(MD)が発表され、対抗するように松下電器(現パナソニック)からDCC(デジタルコンパクトカセット)が発表されるなど、デジタルメディアの世界は戦国時代に突入していたのです。カセットウォークマン・ユーザの殆どはDATに乗り換える事なく、MDウォークマンへと乗り換えて行ったのでした。後にMDウォークマン・ユーザがiPodなどのシリコンメディアへと乗り換えて行った事からわかるように、ユーザの指向性は音質よりも利便性を重視した事の表れだったのです。

こうして世界的にも唯一無二の再生専用DATウォークマンは、このWMD-DT1が最初で最後のレアなモデルとなったのです。

写真の個体は、この機種が発表されたと同時に予約して購入したものです。原理的に音質の劣化が避けられないMDが好きになれずずっとこのDATウォークマンを持ち歩いていましたが、ポケットに入れるには少々重くて電池の持ちが悪い事には閉口していました。外で聴くという環境条件の悪さゆえ、音質についてはとやかく言ってはいませんでした。それでも年々小型軽量化するMDウォークマンに対してついに根負けして手を出す事にはなりましたが、結局MDはあまりのめり込む事はなく、2003年頃にはiPodへと乗り換えてしまいました。それを機にSONYから離れて行ったのです。

 

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